ユンクはインディアンの伝説に通じたひとりの神父の考えを紹介している。
「すでに第二次大戦前の、原子とロケットの実験時代がまだはじまらないずっと前から”第四の時代”がまもなく始まるだろうということが、プエブロ・インディアンの間の話題になっていた。
かれらの創世記では、初めは霧と氷の世界であり、ついで地の下または地の中での生活の時代が来、その後に地上での生存の時代が来た。そして今やかれらは”天と光体の新時代”を待望していたのだ。ある日、かなたのアラモゴードとホワイト・サンズで未知の火焔が噴きあがり、この砂漠一帯に耳を聾せんばかりの未曾有の轟音が鳴りひびき、奇怪な巨柱が天空に立ちのぼって消えたとき、インディアンたちは少しも驚いたり、恐れたりしなかった。それどころか、かれらはこれらの新しい現象を、時代の転換する前触れとして、感激にあふれながら迎えたのです。
なぜなら第四の時代の”光人”たちは、伝承によると、もはやそのひたいに汗して働く必要はないことになっていたから」冗談ではない。その後一か月もたたぬうちに、太平洋の対岸の島国で「奇怪な巨柱」が立ちのぼり、おそるべき「第四の時代」が阿鼻叫喚の内に展開したというのに。インディアンの怪しげな伝説にかこつけて「第四の時代」を美化しようとするこの神父は、案外、平均的アメリカ人の典型かもしれない。
「虚像の時代 東野芳明美術批評選」