「もちろん、常識的な考え方をしている人間は非常に多い。そういう連中はたとえ理性的な接触を保つことに失敗しても、この海のプラズマを、つまりプラズマの中から一昼夜だけ飛び出してきてふたたび消えてゆく気まぐれな生きた形成物を研究しさえすれば、物質の秘密を解き明かすことができると信じていて、それが真赤な嘘であることはまるで理解しようとしない。そんなことは、例えて言えば、知らない言語で書かれている本ばかりを集めている図書館へ行って、何も理解できないままに、仕方なしに、色ずりの表紙だけを眺めているようなものだ......」
「でもこのような惑星はほかにもあるのかしら?」
「それはわからない。もしかするとあるかも知れないが、我々が知っているのはまだ一つだけだ。とにかく、非常にめずらしいもの、地球とは全然違うものであることは間違いない。われわれは......われわれはありふれた存在だ。われわれは宇宙の雑草だ。そして、自分らの平凡さが非常に広く通用することを誇りにし、その平凡さのうつわのなかに宇宙の全てのものを収容できると思っている。しかも、そういう図式を信条にして、われわれは喜び勇んで遠い別の世界へ飛び立っていた。しかし、別の世界とは一体なんだろう?われわれが彼らを征服するか、彼らがわれわれを征服するか、それ以外のことは何も考えていなかった......」
『ソラリスの陽のもとに スタニスワフ・レム/飯田規和訳』