"聖なる光と闇が織りなすこれらの空間は、個人の幻想の世界ではない。そこにはドゴンの社会生活にとって本質的なあらゆる要素が含まれている。そこで物語られているのは単に過ぎ去った事件、追憶の中にのみ存続する過去ではない。神話空間は現実の背後にあって今なお働き続けている聖なる力の世界である。それはいわば現実をかくあらしめている形相でありイデアの世界である。現実世界の事象は神話に現れる事象の象徴として存在している。ドゴンにおいては、この象徴の体系は途方もなく発達している。かくして神話空間は世界の隅々にまで浸み亘っているのである。全ての事象は神話を象徴し、そのことによって創世の時を現在に再現している。存在するとは、そのようにあることである。"
「阿部年春 『アフリカの創生神話』」